物価や電気代等の光熱費の上昇が家計を圧迫する中、これまで以上に住宅の省エネ性能に注目が集まっていると言えます。
日本の省エネ法は、1979年の制定から度重なる改正により基準が強化され、2015年には建築物に特化した「建築物省エネ法」が制定されました。
今回は、これまでの省エネ法の変遷、そして建築物省エネ法が制定されることになった背景と法律の概要について詳しく解説していきます。
1. 日本の省エネ政策の変遷
省エネ法は、時代の変化により度重なる改正が重ねられてきました。どのようにして省エネ法の内容が変わってきたのか、その変遷について詳しく見ていきましょう。
1-1. 日本の省エネ法には40年以上の歴史がある
1979年に制定された省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)は、第二次オイルショックによるエネルギー危機をきっかけに制定されました。そのため、主に化石燃料(石油・石炭・ガス等)の消費量を抑え、エネルギーを効率的に利用することを目的とした内容になっています。
省エネ法の規制対象は、「工場・事務所」「貨物・旅客・航空輸送機関」「住宅・建築物」「機械機器」の4つの事業分野。しかし、制定の背景から、当時の省エネ法は制定の工場や事務所に対する省エネ施策が主軸となっており、住宅・建築物に対しては省エネのガイドライン(主に建物の構造躯体の断熱性能の規制)を示してはいますが、あくまでも努力義務としたものでした。
その後、1997年に京都議定書が採択されたことをきっかけに、省エネ法は地球環境問題(地球温暖化対策とした温室効果ガス排出削減)を目的とした内容にシフト。改正が重ねられて基準が強化され省エネ性能の向上について様々な政策が行われてきました。
1-2. 2013年に省エネ法の大幅改正、2015年建築物省エネ法の制定
様々な省エネ施策が進められてきましたが、住宅・建築物部門においては省エネ化が進まない状況が続いていました。そして、2011年の東日本大震災によるエネルギー需給問題が契機となり、2013年には省エネ法が大幅に改正され、同法に基づく省エネ基準(平成25年基準)が制定されます。
この改正により建物全体の省エネルギー性能を評価する「一次エネルギー消費量」の算定が導入され、建物の構造躯体等の断熱性能だけでなく、冷暖房・換気・給湯といった住宅設備のエネルギー消費もあわせて評価する仕組みに大きく変わりました。
しかし、住宅・建物分野ではさらにエネルギー消費が増加していき、消費エネルギーにおける建築物のシェアは全体の三分の一を占めるほどになりました。
より住宅・建築物に絞った省エネ対策の強化を行うために、省エネ法から住宅・建築物部門を取り出して、2015年には建築物省エネ法が制定されることになったのです。
2. 建築物省エネ法の概要~規制措置と誘導措置
2015年に制定された建築物省エネ法は、2016年に「誘導措置(任意)」、2017年に「規制措置(義務)」と段階的に施行されました。建築物省エネ法を構成するこの二つの施策内容について詳しく見ていきましょう。
2-1. 省エネ化を進めるための誘導措置
2016年にスタートした「誘導措置(任意)」では、全ての建物(既存・新築・増改築改修含む)を対象に、所有者は省エネ基準の適合認定を受けると建築物や広告に省エネ基準適合認定マーク(eマーク)を表示できるとし、また認定を受けた際に容積率緩和の特例措置が適用されるとしました。
この容積率緩和特例とは具体的に言うと、省エネ性能の向上に必要な設備部分は容積率へは不算入とするというもの。所有者にとっては大きなメリットとなります。まさに、建築物省エネ化への誘導施策ということです。
2-2. 省エネ基準適合を推進するための規制措置
一方、2017年にスタートした「規制措置」は、一定規模以上の非住宅建築物に対し、従来の省エネ法では届出義務だったものを適合義務に変更して基準を強化しました。
また、住宅を含む一定規模以上の建築物については、新増改築の際に省エネ計画の届出が義務化され、基準に適合しない場合は行政による計画変更等の指示・命令が可能となりました。
そして、もう一つの規制措置の軸が住宅トップランナー制度です。一定数以上の住宅を新築する住宅事業主に対してより高い省エネ基準(住宅トップランナー基準)を定め、達成するように勧告することができることとしました。
3. 2021年の改正建築物省エネ法
2021年に行われた改正により、これまで以上に省エネ化を促進させるべく住宅・非住宅ともにより厳しい内容へ変更されました。その背景としては、まだまだエネルギー消費の割合の多い中規模建築物と小規模建築物に対してより省エネ化を図るというものです。
具体的には、2,000㎡以上の大規模建築物に加えて、中規模建築物も省エネ基準への適合が必要になったこと。また、小規模建築物についても、これまで省エネ性能向上の努力義務に加えて説明義務が加わりました。
説明義務とは、建築士から施主に対して省エネ基準に適合しているか、適合していない場合は省エネ性能確保のために必要な措置について説明を書面で行う必要があるということ。
これまでは努力義務だったため、実際には強制力がなく実施がされないことの方が多かったのですが、改正により説明義務が加わったことで、施主への説明や情報提供により省エネ意識を高めるという効果も見込めます。
改正前と改正後の省エネ基準への義務一覧
改正前 | 改正後 | ||
大規模建築物(2,000㎡以上) | 建築物(非住宅) | 適合義務 | 適合義務 |
住宅 | 届出義務 | 届出義務 | |
中規模建築物(300㎡以上2,000㎡未満) | 建築物(非住宅) | 届出義務 | 適合義務 |
住宅 | 届出義務 | 届出義務 | |
小規模建築物(300㎡未満) | 努力義務 | 努力義務+説明義務 |
4. まとめ
今回は、これまでの日本の省エネ法改正の歴史と、建築物省エネ法について詳しく解説してきました。
2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、2025年までに住宅及び小規模建築物の省エネ基準の適合義務化といった内容が盛り込まれており、今後もますます省エネへの規制の強化を進めていくことになります。
省エネ性能の向上は、地球の環境問題対策としても非常に重要ですが、私たちの快適な暮らしにもつながっていくものです。自分事としても興味を持って積極的に省エネに取り組んでいきたいですね。