マンションの適切な維持管理には、日常のメンテナンスに加え、計画的な修繕を行う必要があります。そのために重要なのが「長期修繕計画」です。
戸建てとは異なりマンションは共同住宅になるため、お部屋(専有部)以外の共用部の管理や修繕はマンション全体で行うことになります。住民一人ひとりがマンションの資産価値を守るために適切な修繕の必要性、そして内容の理解を深めることが重要です。
今回は、マンション管理に欠かすことのできない「長期修繕計画」について詳しく解説していきます。
1. 長期修繕計画とは?
まず、長期修繕計画とは何か、概要と目的について詳しく解説していきましょう。
1-1. 長期修繕計画の概要
冒頭でもお伝えしたように、「長期修繕計画」とはマンションを適切に維持管理していくために必要な修繕の計画です。
長期修繕計画の作成は国土交通省が提示する「長期修繕計画作成ガイドライン」をベースに作成することを推奨されています。作成に当たっては、マンションごとに異なる立地や構造、物件の状況等を踏まえ、それぞれの物件に適した計画内容を検討し作成する必要があります。
1-2. 長期修繕計画の目的
長期修繕計画を立てる目的はマンションの適切な維持管理ですが、より具体的に明示すると下記の通りとなります。
- 数十年先を見据えた上で、必要となる修繕工事やそれに掛かる費用を把握し備えるため
- 修繕積立金を設定するための根拠を明らかにするため
- 適切な修繕のタイミングにスムーズに工事を実施するため
修繕する内容や実施時期だけでなく、計画的な修繕工事を行うために必要な費用についても予め想定し、月々住民が納めるべき修繕積立金を適切に設定し明らかにすること。
そして、実際に計画した修繕を的確に実施するためにも、長期修繕計画の策定は非常に重要なものだと言えますね。
2. 長期修繕計画の内容
では、長期修繕計画に含まれる主な項目について見ていきましょう。
2-1. 具体的な修繕工事項目
マンションの形状・仕様や物件の状況等によっても異なりますが、修繕工事の内容は、新築時の水準に建物・設備の性能や機能が維持・回復されるものを基本として考えます。
また住民の要望がある場合はそうした内容も含めて修繕工事内容を検討し、事前の調査・診断を行った上で実施する工事内容や要否を判断します。
主に行われる修繕項目の例を見てみましょう。
- 仮設工事(大規模修繕の際に必要な足場や仮設事務所)
- 建築関係の項目
・屋根防水(屋上やルーフバルコニー等の防水)
・床防水(バルコニーや共用廊下や階段の防水)
・外壁塗装等(外壁・タイル等の塗装、シーリング打替等)
・鉄部塗装等(手すりやフェンス、メーターボックス等設備塗装)
・建具・金物等(住戸玄関ドアや自動ドア等補修や取替)
・共用内部(共用部廊下や集会室事務所等の内部張替・塗装)
- 設備関係の項目
・給水設備(共用給水管、貯水槽、給水ポンプの更生、取替、補修)
・排水設備(共用雑排水管、排水ポンプ等の更生、取替、補修)
・ガス設備(共用ガス管の取替)
・電灯設備等(共用部照明・配線器具、外灯、避雷針等の取替)
・空調・換気設備(共用部エアコン、換気扇等の取替)
・情報・通信設備(電話配線、テレビアンテナ等、インターネット、インターホン、オートロック等の取替)
・消防用設備(消火設備、自動火災報知機等の取替)
・昇降機設備(エレベーター内装、扉、機器の補修・取替)
・立体駐車場設備(自走式、機械式駐車場の補修・取替)
- 外構・その他
・外構・付属施設(駐車場や歩道、側溝、塀、案内板、自転車置き場、ごみ置き場、植樹等の補修・取替・整備)
・調査・診断、設計、工事監理等費用(大規模修繕工事前に行う調査等、計画設計依頼の費用等)
・長期修繕計画作成費用(長期修繕計画の定期的な見直しのための点検・調査・診断等)
2-2. 修繕時期・周期の設定
国交省の長期修繕計画ガイドラインでは、外壁塗装や屋根・床の防水工事、タイル貼り補修、空調や換気設備の取替といった大規模な修繕工事の目安は12~15年としています。
また、箇所によっては、5~7年で補修を行う必要のある箇所から30年程のスパンで修繕を行う箇所など、部位の耐久性によって修繕周期にも幅があります。
ただし、あくまでもこれらは参考とし、実際の修繕時期や周期は点検や診断を行った上で物件それぞれの状況に合わせて適切なタイミングで計画・実施する必要があります。
2-3. 修繕に必要な資金計画に関する内容
長期修繕計画では、適切に修繕工事を行うために必要な資金についても明確に設定します。
推定される修繕工事費用を算定し、その累計額を修繕積立金の累計から下回らないように収支計画を検討していきます。そのため長期修繕計画には住戸当たりの修繕積立額や残高、借入金の残高等の会計状況についても詳細に記載され、資金状況を把握しやすくしています。
参考: 国土交通省 長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン(コメント含む)
3. 長期修繕計画に関する注意点
ここまで長期修繕計画の概要から具体的な内容を見てきましたが、マンション購入を検討される方であれば、事前に知っておくべき注意点があります。
3-1. 長期修繕計画は約5年ごとに定期的に見直される
長期修繕計画は、建物や設備の劣化状況や社会環境・ライフスタイルの変化、物価や工事価格等の変動、新たな工事方法の導入等と、常に変動の可能性のある要素を含んだものになります。
そのため、一度計画を立てたら終わりということではなく、定期的(概ね5年ごと)に見直しを行うことが推奨されており、修繕箇所が追加されたり修繕積立金の額が変更になるなど計画が変更になる場合があることは理解していきましょう。
なお、見直しを行うにも外部への調査・委託費や期間が必要になります。
3-2. 計画通りにいかない場合もある
修繕計画を立てていても、思いがけない設備の不具合、災害の発生といった想定外の事象が起こってしまう可能性もあります。
こうした不測の事態が起こった場合でも対応できるように余裕を持った資金計画を行いますが、それでも計画通りにはいかない場合があること。そして、そうした場合修繕積立金の増額や一時金の徴収といった可能性もあるということも覚えておきましょう。
4. まとめ
今回は長期修繕計画について詳しく解説してきました。
マンションの資産価値を守るために適切な修繕は不可欠です。特に中古マンションの購入検討時には、必ず長期修繕計画を入手して内容の確認を行いましょう。