台風や大雨、地震や火山噴火といった自然災害は、いつどこで起こるかわからないもの。
住居などが自然災害の被害にあった際に、公的支援や保険の請求の手続きのために必要なのが罹災証明書です。
この記事では、罹災証明書の概要から発行までの流れや、申請する際に必要となるものなど、いざというときに知っておきたい内容を詳しく解説します。
1. 罹災証明書とは
罹災証明書とは、災害によって住居が被害を受けたことを証明する書類のことを言います。
市区町村長は、その地域で発生した災害による被災者から申請があれば、遅滞なく被害状況を調査し、罹災証明書を発行しなければならないと災害対策基本法で定められています。
発行の際には、災害との因果関係や被害状況について自治体職員が現地調査を行った上で、「全壊」「大規模半壊」「半壊」等の被害程度の区分を判定し、公的な証明書として発行します。
罹災証明書は、被災者が様々な支援制度や保険の適用を受ける際に必要となる重要な書類です。被害に遭ったら、できるだけ早めに申請を行いましょう。
2. 被害程度の認定基準について
災害による被害程度基準は、内閣府の定める「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」に下記のように定められています。
被害の程度 | 認定基準 |
全壊 | ・住家がその居住のための基本的機能を喪失したもの。住家全部が倒壊、流失、埋没、焼失したもの。 ・住家の損壊が甚だしく、補修により元通りに再使用することが困難なもの。具体的には、住家の損壊、焼失、流失した部分の床面積が、その住家の延床面積の 70%以上に達した程度のもの、または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し、その住家の損害割合が 50%以上に達した程度のもの。 |
大規模半壊 | ・居住する住宅が半壊し、構造耐力上主要な部分の補修を含む大規 模な補修を行わなければ居住することが困難なもの。 ・損壊部分がその住家の延床面積の 50%以上 70%未満のも の、または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める 損害割合で表し、その住家の損害割合が 40%以上 50%未満のもの。 |
中規模半壊 | ・居住する住宅が半壊し、居室の壁、床又は天井のいずれかの室内 に面する部分の過半の補修を含む相当規模の補修を行わなければ居住することが困難なもの。 ・損壊部分がその住家の延床面積の 30%以上 50%未満のもの、または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し、その住家の損害割合が 30%以上 40%未満のもの。 |
半壊 | ・住家がその居住のための基本的機能の一部を喪失したもの。住家の損壊が甚だしいが、補修すれば元通りに再使用できる程度のもの。 ・損壊部分がその住家の延床面積の 20%以上 70%未満のもの、または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し、その住家の損害割合が 20%以上50%未満のもの。 |
準半壊 | ・住家が半壊又は半焼に準ずる程度の損傷を受けたもの。 ・損壊部分がその住家の延床面積の 10%以上 20%未満のもの、 または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害 割合で表し、その住家の損害割合が 10%以上 20%未満のもの。 |
そして、令和3年3月には、損害割合が10%未満の「準半壊に至らない(一部損壊)」が加わり、6区分の認定基準に改定されています。
3. 罹災証明書の申請から発行までの流れと必要なもの
ではここから、被害に遭ってから申請、発行までの具体的な流れと、その際に必要となるものについて見ていきましょう。
3-1. 被害状況の写真を撮影する
被害に遭った際には、まず現場の写真を撮影します。わかりやすく記録するため、建物の全体から被害を受けた箇所を複数箇所、詳細に撮影します。保険の申請にも必要な重要な資料になるため、忘れずに行いましょう。
3-2. 自治体・消防署に申請する
罹災証明書発行の申請は、自然災害による被害は自治体の担当部署。火災の場合は、所轄の消防署が窓口になります。
申請は速やかに行いましょう。
持参するものは罹災証明交付申請書、印鑑、本人確認のための身分証明書、被害状況写真です。
申請書は、各自治体の担当部署窓口、もしくは自治体のウェブサイトよりダウンロードできます。
申請の際には、以下の点に注意が必要です。
申請書式は地域によって異なるため、必ずお住いの自治体の申請書を使用して行ってください。また、本人以外が申請を行う場合は委任状が必要となるため注意しましょう。
申請は一定期間で締め切られてしまうため、被害に遭った際は早めの手続きが必要です。
3-3. 調査
国が定めた調査方法によって調査員が内閣府の指針に沿って調査を行います。
大きな規模の災害になると、調査が行われるまでに時間を要する場合もあります。
3-4. 被害程度の認定、発行・交付
調査後、前述した被害程度の基準に基づき認定が行われ、罹災証明書が発行・交付されます。
申請から発行までに、少なくとも1週間程度かかりますが、災害の規模によっては1ヶ月以上かかることもあります。
発行までに時間がかかる場合、急ぎの手続きのためには「罹災届出証明書」を発行してもらう必要があります。
罹災証明書の申請の際に、発行期間の目安とともに確認しましょう。
4. 被災後、罹災証明書によって受けられる支援
罹災証明書によって受けられる支援制度には様々なものがありますが、ここでは一例をご紹介します。
被害の程度によって受けられる支援制度が異なり、ほとんどのものは半壊以上が対象となります。
実際にどの支援制度が利用できるかは自治体によって異なるため、お住まいの市町村で必ずご確認ください。
4-1.【給付】被災者生活再建支援金、見舞金
被害者生活再建支援制度により、居住する住宅が全壊するなど、自然災害により生活基盤に著しい被害を受けた方に対して、被災者生活再建支援金が支給されます。
被害程度に応じた基礎支援金(全壊・解体・長期避難で100万円、大規模半壊で50万円)に加え、住宅の再建方法に応じて支給される加算支援金(建設・購入200万円、補修100万円、賃借50万円)が支給されます。
また、その他に行政から支給されるものとして、罹災証明書で認定された被害程度によって見舞金や支援物資の支給があります。市区町村によって異なるため、詳細についてはお住まいの自治体窓口で確認ください。
4-2.【現物支給】応急仮設住宅、災害救助法による応急修理制度
災害による住居の損壊や、長期間自宅に戻れなくなった場合には、応急仮設住宅や公営住宅に仮住まいが利用できます。
また、被害を受けた住居が、応急的に修理すれば居住可能となると判断された際に、修理費用の一部(支給額は1世帯あたり54.7万円)を自治体が負担する制度もあります。
ただし、こちらの制度を利用する際には、所得や応急修理の期間が1か月以内に完了することなどが条件となるため、必ず事前に詳細を確認しておきましょう。
参考: 【内閣府】災害救助法の概要
4-3.【減免】税金や保険料、公共料金等
住宅のほか、家財や車両といった生活に必要な資産の損失を対象に、雑損控除または災害減免法という制度があります。こちらの制度を利用すると、確定申告や市民税・県民税の申告を行った際に所得税・市民税・県民税が軽減される場合があります。
その他にも、市民税、県民税、固定資産税、国民健康保険税等の市税や後期高齢医療保険、国民健康保険料の減免や、医療費の減免が受けられる制度がありますが、申請を行う際には、内容により窓口が異なるため、市区町村の担当部署で必ず確認を行いましょう。
参考: 【国税庁】災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
4-4.【融資】金融機関からの無利息・低金利融資、災害援護資金
融資についても、低金利や無利子といった支援が受けられる制度があります。
利用しやすいものでは、住宅金融支援機構の災害復旧住宅融資がありますが、その他の金融機関でも融資制度があるため、金利や貸付額、条件等を確認の上、各金融機関にご相談ください。
また、市区町村でも、住宅や家財に被害を受けた方に、無利子もしくは年利3%で災害援護資金の貸し付けを行っています。損壊程度等の適用要件や借入額の上限があるため、お住まいの市区町村に確認してください。
なお、災害援護資金については、都道府県内において災害救助法が適用された市町村が一以上ある場合の災害が対象となります。
5.まとめ
罹災証明書について、概要から具体的な発行までの流れ、受けられる支援について解説してきました。いつどこで発生するかわからない自然災害に備え、被害に遭っても困らないようにしっかりと確認しておきましょう。